築100年以上の古民家の再生工事です。北海道では内地に比べ、残っている民家の数も少ないことで一般の方に古民家の空間のイメージが共有されにくく、よって再生しようという機運も低かったように思います。さらに、再生工事といえども北海道では冬の使用を考えると新築並みに断熱気密化工事を行うべきなので内地とは違う技術的な難しさがありました。そういう状況下でも民家再生工事で実績を積み重ねてきたのが今回、施工を担当していただいた武部建設さんです。棟梁以下抜群のチームワークで難しい工事を短工期で完成していただきました。 ただ、この民家が完成に至るには実に多くの方々のご尽力がありました。まず、この民家を提供していただいた畑島様。50年以上に渡り、この民家を守ってこられ、そして町のためにと提供したいただきました。これを再生の方向に道筋をつけ、公共建築物として具体化していただいた役場の街づくりや建築部署の方々、学術調査をし、デザインのあるべき方向を示していただいた札幌市立大学の羽深教授、真冬に連日夜遅くまでがんばってくれた武部建設のスタッフ、棟梁・大工さん。そして設備・電気、屋根・左官・塗装・建具会社の皆さんなどなど。私も微力ながら調査から基本・実施設計そして設計監理に携り、なんとか役目を果たせたような気がしています。 旧畑島邸古民家の何をどう残しどう再生するのか。現行の基準法に合致させたり、文化財的な表の顔とパン製造というもう一つの機能をどう組み合わせ、要求性能水準に再構成するのか。コストと工期内に収めることも必要だけど、今までこの建物を守り通してきた畑島様に良かったと思っていただける、また厚真町民の共通の財産として誇りを持っていただくにはどうデザインすれば良いのか。そしてこの先100年を意識して建物をより良い状態に保っていただくため、維持管理の計画と実践の方法を設計監理の段階から使用者様にお示しするなど様々な課題に取り組むことができました。 移築前調査の時、訪れた旧畑島邸は少々疲れた顔をしているように感じましたが、先日久々に訪れた時、この民家に「今みなさんのおかげで、こんなふうに生き返えることができました。再生してくれてありがとうございます」と言われているような気がしました。 この建物では現在パン屋さんが営業しています。営業時間内、見学可能です。定休日は火、水曜日。開店時間は10:00〜(目安)17:00までです。ぜひ一度、実際の再生された民家をご覧下さい。 |